網膜剥離になっちゃった3 硝子体手術と楽しいうつ伏せ生活

 

「硝子体手術と楽しいうつ伏せ生活」

さて、バックリング手術では剥離を直せなかったので硝子体手術となった。これがいつになるのか、待つのが苦手な私はやきもきしていたのだが、このあたりから「諦め」→「悟り」の期間に入って行った。

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すると、昼夜問わず世話してくれる看護師さんや遅くまで手術して翌朝には診察してくれるお医者さんの仕事の大変さをつくづく感じて、感謝の気持ちが溢れてきた。同部屋の、もっと深刻な病の患者さんたちのことも見えてきて、やっと謙虚な気持ちになれたのもこの時期だ。パニックの時は何も見えない聞こえないんだなということがよくわかった。

 

それを見計らったように、バックリングから4日後に急遽、硝子体手術の得意な教授が執刀してくれることになった。2回目なので、手術の前の目薬攻めや、点滴はもう慣れたもの。今度は1時間ほどで手術は終わった。前にも書いたが、この手術は局所麻酔なので先生の言っていることや音などが全部聞こえる。前回の手術の時はなんとなくバックリングが上手く行っていないようだということがわかった。今回は上手く行っている感じが伝わり、実際、終了後に教授が満足そうに「上出来!」的な自信に満ちたことを言ってくれたので安心した。バックリングが無駄ではなく効いているということも、先生たちの会話でわかった。

 

それからは硝子体手術後のメインテーマ?である「楽しいうつ伏せ生活」だ。目の中に入れた空気を抜くため、抜けるまで下を向いていなければならず、寝る時も三日月型の枕の穴にまっすぐに顔をつけて、絶対上を向いてはいけない。昼間も1日中下を向いて、いつもおへそを見ているような角度に頭をしていないと、空気が抜けない。(空気は頭のてっぺんあたりからしか抜けないらしい。)トイレに行くときも、食事をするときも下を見ながら。机に突っ伏して寝る高校生の居眠り状態は可。最初の3日間は特に頑張りましょうとのことであった。

(まくら)

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手術した方の目は当然まだ見えないので片目だけの生活、に加えて常に下向きは不便だ。それでもラインや本を読むことも少しはできたが、こうなると耳からの情報がありがたい。音楽はもちろん、朗読ラジオなどが役に立った。ベッドでの携帯の充電は見逃してくれるので、そう言った耳からのツールとアプリを入院時に用意しておくと良いですよ。コロナ渦で今は面会禁止なので、家族にも会えませんからね。(衣類など必要なものを受け取ることはできます。)

 

3時間ごとに1日6回目薬をさすのだが、とにかく暇なので、目薬と食事の時間になると、やることができて嬉しかった(笑)。働き者の日本人のDNAだろうか。

辛いのは夜。常にうつ伏せで朝までぐっすり眠れますか?「NO!!!」

眠れるわけないでしょ。1時間ごとに目を覚まし、首や腰や膝まで痛くなり、夜中にトイレに行って体を動かすのが日課に。いつもは寝坊すけなのに6時の起床時間が待ち遠しいのだった。

 

とはいえ、このように「賢いうつ伏せ生活」を徹底していると、目の中の空気が徐々に抜けてくる。目の中に水平線みたいな境目があり、ポチャポチャと揺れているのが美しい。私の場合は水平線が徐々に下に降りてきて、なかなか幻想的な景色ではあった。

 

(術後2日、まだ5分の4は空気)

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頑張った甲斐あって、目に異常がなく、視力も少しずつ回復してきたので、「家でもしばらくうつ伏せを続ける」という条件付きで、2回目の手術後1週間で早々に退院して良いという教授のお墨付きをもらえた。ただ、この時点で、いつから楽器の練習を始めて良いか、3週間後に迫った演奏会で演奏できるのかはまだわからなかった。

 

(術後8日、空気が抜けたところから見える)

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硝子体手術の権威である執刀医の教授は、偶然にも芝居か何かで舞台に立つことがあるそうで、演奏家としての私の焦りや不安を理解してくれているという実感があり、大変心強かった。

「3週間後コンサートができるかどうか、それを決めるのは自分であり、どれだけ自分にとって重要かを計るのは自分である。やったことで何かあった時に、やらなきゃよかったと思うのなら、やめるが良い。」

このような言葉をかけていただき、ほっぺたをひっぱたかれたようにシャンとした。「腹を括れ!」ということですね、先生。何かとネガティブ思考に陥りやすい私にとって、この先生との出会いは大きかった。

 

医者は最悪の事態を想定して、必ず悪い例を示す。これは患者に納得してもらうため、訴訟などを起こされないために必要なことなんだろう。しかし、基本的には医者はポジティブであるべきだと私は思う。きめ細かく、一緒になって心配してくれる医者もありがたいけれど、時には突き放して、「私は私のやれることをやったよ。あとはあなたがやるべきことをやりなさい。」と自信を持って言ってくれる人を私は信頼する。

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